会社を辞めたいけど、普段から社員に不当な扱いをするようなブラック企業だと、退職を申し出たら何を言われるか不安ですよね。
私もオーナー社長のワンマン経営の企業に勤めていたことがあるので、法律?常識?そんなの知らん!俺がルールだ!という経営者や上司のもとで働いていると不安になる気持ちがよくわかります。
日本国民には憲法で職業選択の自由が定められている上、民法や労働基準法といった各種法律で労働者の権利は守られています。
当記事では、自分自身の身を守り毅然とした態度で退職交渉に臨むための基本的な知識や、退職交渉がこじれてトラブルになったり脅しを受けたときのための相談窓口などをまとめましたので、参考にしていただけると嬉しいです。
弱みを見せたりおびえる姿を見せるとつけあがるのがこうしたワンマン経営者や上司の特徴です。何を言われても怯まずに戦いましょう。
労働者の退職は法律で保障されている
労働者が自分の好きな仕事に就くということは憲法で保障されています。また、民法において退職に関する規定も定められており、会社は従業員の退職を拒否することはできません。
憲法第22条:職業選択の自由
憲法は国民の権利や自由を国家権力から守るためにあります。国の法体系の最上位に位置付けられ、侵すことのできない永久の権利とされています。国家でさえ侵害できない国民の自由を、一民間企業が侵害していいはずなどありません。
そんな憲法では以下のように定められています。
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
日本国憲法第二十二条
私たちには職業を自由に選択する権利があり、自分の仕事は自分で決めることができます。したがって、退職を申し出た労働者に対して、社長や上司が「転職させない」などということはできないのです。
民法第627条1項:退職は2週間でできる
民法は、私人間の日常生活において定められた法律で、企業や一個人に対し適用されます。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する。
民法第627条1項
この条文では、労働者は民法上においては退職を申し出てから2週間が経過すれば、上司や会社の承諾の有無にかかわらず退職が成立するということが書かれています。
条文に定められている「雇用の期間を定めない」労働者とは、一般的な正社員のことを指します。
一方、アルバイトやパート、契約社員といった雇用期間に定めのある労働者はこの条文には当てはまらず、雇用契約の期間を満了する必要があります。しかし、やむを得ない事情、例えば体調不良などの業務の継続に支障が生じる事由については直ちに契約を解除することが可能と定められています。(民法第628条)
また、こうした期間に定めのある労働者は、最初の契約から1年以上が経過した日以降は、使用者に申し出ることでいつでも退職できるとされています。(労働基準法第137条)
就業規則がある場合はそちらが優先される
民法第627条は「任意規定」とされており、契約で法律と異なる内容を定めた場合、契約の内容が優先して適用されます。
そのため、就業規則等で退職に関する定めがある場合、そちらが優先されることとなります。例えば、「退職は1ヵ月前までに申し出ること」とされているなら労働者は1ヵ月前までには伝えなければなりません。
では、会社側は自分の都合のいいように好き勝手に定められるかというと、もちろんそんなことはありません。
任意規定の対となるものとして強行規定というものがありますが、これは当事者の合意に関わらず法律が優先されるというもので、強行規定である民法第90条で次のように定められています。
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
民法第90条
法律行為が公序良俗に反する場合は、社会的妥当性を欠くのでその法律行為を無効とするというものです。具体的には暴利行為や人身の自由を制約する契約などが考えられます。
退職の申し出を民法の2週間よりも長くすることの合理的理由は、一般的に引き継ぎ等に要する期間などとして考えられます。従って、1年など極端に長い期間の設定をすることは、社会通念上妥当性を欠くこととなり無効です。
労働基準法は強行法規
ちなみに、労働基準法は強行法規であり、たとえ労使間の同意があったとしても、労働基準法に違反する労働契約は無効です。これは同法第13条に定められています。
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分はこの法律で定める基準による。
労働基準法第13条
会社から無理な引き留めや損害賠償などの脅しをされたら?
ここまでで労働者の退職は法律で保障されていることがわかったかと思います。
では次に、実際に退職を申し出た際に社長や上司から無理な引き留めや損害賠償を請求するなどの脅しを受けた場合について、まとめました。
なお、後々トラブルになったときの証拠になるので、退職を申し出る際にはボイスレコーダー等で録音しておきましょう。
引き留めはすべて会社の落ち度
引き留めるパターンとしては「後任が見つかるまでは辞めさせない」「こんな人手不足で辞めるなんてありえない」などが考えられますが、すべてにおいてただの会社側の都合でしかありません。
一労働者である私たちは、あくまで法律に基づいた労働契約における労働力を提供するだけの存在です。会社側の都合など知った話ではありませんし、これまで述べてきたように退職の自由は法律で保護されています。こうした退職を拒否するような言動は「在職強要」といって違法行為とされていますので、無視しましょう。
懲戒解雇にすると脅された
退職するなら懲戒処分にするなどの脅しをしてくることも考えられます。会社側が労働者を懲戒解雇するには、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したとして無効になると労働基準法第15条で明記されています。
パワハラや経歴詐称、犯罪行為などの理由がなければ行えるものではありませんので、無視して大丈夫です。
損害賠償請求をすると脅された
退職後の業務に支障が出るとか、あるいはこれまでのミス等を持ち出されて損害賠償をするなどの脅しを受けることも考えられます。
労働基準法第16条では、賠償予定の禁止といってあらかじめ労働者に違約金や損害賠償額を予定する定めや契約をしてはならないとされています。これはあらかじめ違約金等を決めておくことを禁止するもので、例えば就業規則に退職時の違約金等の記載がある場合にはそれは無効になるということです。
では、一切の損害賠償ができないかというとそうではなく、事前に決めておくことはできないというだけです。そのため、会社がその気になれば損害賠償をすることは可能です。
しかし、損害賠償をするとなると損害の発生やその金額の根拠など、立証するための証拠を集める必要があります。裁判となれば費用も時間もかかる話になるので、そう簡単に行えるものではありません。そんな労力のかかることを、わざわざ会社側が行うでしょうか。
とはいえ、こればかりはケースバイケースになってくるので、損害賠償を起こされる可能性は普通に考えれば極めて低いものの、「100%損害賠償されることはない」と言い切ることはできません。
しかし、然るべき手順を踏んで退職を申し出ている場合、こちらに落ち度がなければ賠償すべき損害などありませんから、毅然とした態度で対応することが重要です。なお、バックレなどの行為はこちらに非を作ることになりますのでやめましょう。後述しますが、直接退職交渉を行うことが難しい場合は退職代行を利用するのも1つの手です。
自分で解決できそうになければ各機関へ相談
退職を申し出て難航した場合の、会社側の違法性についてまとめてきました。
しかし、いくら会社側が悪いというのがわかっていても、威圧的な言動や態度を取られたり、一方的にまくしたてられればうまく対処できなくなってしまうことは大いに考えられます。
そこで、退職交渉がこじれてしまった際の相談窓口を調べました。
総合労働相談コーナー(労働局)
総合労働相談センターは全国の労働基準監督署内など379か所に設置されており、無料、予約不要で労働問題に関する相談が可能です。
もちろん退職に関する労働問題も相談でき、関連する法令や過去の裁判例等の説明を受けることができます。まずは自己解決を図れるよう促されるのが基本のようですが、必要に応じ外部機関の紹介等も受けられるようです。
どこに相談すればいいかわからないという時も、まずはここへ行くとよさそうです。
労働基準監督署
企業側が明確に労働基準法に違反する行為を行っており、その証拠もあるという場合には所在地を管轄する労働基準監督署へ直接出向いて通報するという方法もあります。
上記の総合労働相談センターが個別の紛争事案の解決のための機関であるのに対し、労働基準監督署は違法行為の是正を目的とします。場合によっては解決に至るまで時間がかかったり、思うような対応を得られない可能性もあります。
退職代行を使うという手も
自分ではうまく対応できそうにないという場合や、社長や上司の属性からトラブルになることは不可避であるという場合には退職代行会社へ依頼する手もあります。
退職代行は会社の人間と直接かかわることなく退職できるので、もう話す気力すらないという人にもおすすめです。
下記記事では退職代行の基本から各業者のサービス比較をまとめているので気になる方は参考にしてくださいね。
まとめ:必要な知識を身に着けて毅然と対応を!
以上、退職を申し出る前に身に着けておきたい知識や、各種相談先のまとめでした。
退職の交渉がこじれそうな場合はとても不安に感じると思います。ましてや転職先が決まっている場合などは、次の会社にも影響が出かねないため気が気でないですよね。
トラブルになった時は然るべき機関へ相談することができますし、自信がない時は退職代行会社を利用することだってできます。この記事を読んでくださった方の不安を、少しでも払拭できれば嬉しいです。